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Discussion

芸術と科学 ー主観と客観を超えて

 

(田島) 最初のゲスト、アーサー・ファンさん、コンセプチュアルアーティストなんですけれども、脳科学の現役の研究者です。彼は脳科学で得られた知見を元に、作品を作っています。その話をまず伺って、その後、儀保さんの話を伺おうと思います。ではアーサーさん、お願いします。

プレゼンテーション アーサー・ファン

アーサー・ファンと申します。よろしくお願いいたします。私のプレゼンテーションは日本語で行います。主観と客観について日本語で話すのは初めてです。日本語で複雑なことはまだまだ勉強中ですから、よろしくお願いいたします。

先月私の個展に田島様が来てくれました。その時田島さんからこのディスカッションの参加招待をもらいました。大学院時代2001年だった記憶と芸術と科学のテーマが興味深いと思いました。そして本日田島さんと儀保さんと話し合うことを楽しみにしています。田島さん、儀保さんもよろしくお願いします。

 本日(参加者の方の)何人かは知っていますが何人かは初めて会います。最初に自己紹介をしたいと思います。

 大学院時代に芸術と科学を考え始めてその時代の作品の紹介もしたいと思います。そして現在の散歩記憶プロジェクトを説明します。1994年分子生物学専攻しました。5年後版画と絵画専攻しました。2009年、8年前にオークランドから引っ越しました。

 今は理化学研究所の脳科学総合研究センターで研究員の仕事しながらアート活動もしています。

 大学卒業後、バイオテクノロジーの仕事、がん研究をしながら、絵画を勉強しました。5年の大学出願のポートフォリオが抽象絵画ばかりですけど、分子生物的な影響がありました。それの1点の作品です。作品は、これだけでwebで見つけました。その時代、客観と主観は別々の世界です。研究は研究だけ、美術で表現するのは芸術で表現するだけです。

 大学院の初年度も抽象絵画を作りました。初年度の夏、一人で東海岸から西海岸をクルマで戻りました。そのとき色々な通勤データを記録しました。例えば毎日どこからどこまで運転し、何回サービスエリアに止まり、どこで食事をするなど。

 そして大学院の2年度に作品の表現が変わりました。同級生と先生と相談し、私の研究員の経験と芸術の経験がつながると思いました。

 2年間の間にコンセプチュアルアートを勉強しました。そして日常生活の記憶から作品を作りました。芸術と人生をつなげて新しい表現をしました。作品の作り方が実験的になりました。例えば最初に日常生活のデータを考えて作品のアイデアを発見します。アイデアの作り方を工夫します。計画を考える時にも素材と模型実験をやって作品の企画を決めます。

それで修了制作展のために、2つの作品を作りました。「私の引き出しと預金」は、壁でカレンダーをつくって、10ヶ月間のATMシートを掛けました。引き出しと預金するときにその月日で一枚一枚を掛けました。

もう一つの作品は私の忠実な消費者です。作品は私のからだと同じ縦、横、高さを作りました。布の表面に5ヵ月間で毎日朝早くから夜遅くまで食べたもの、見たもの、聞いたもの、話した人、お金出した場所のリストを書きました。

大学院時代のもう一つの作品シリーズを紹介したいと思います。この3点のシルクスクリーンは私の食シリーズです。左は穀物、真ん中のは乳製品、右のはタンパク質、整理する方法として元素周期表に興味がありましたから、私の食を使ってシルクスクリーンを作りました。私の日常生活記憶は科学的な形式に変わり始めました。

大学卒業後3年後2002年の食べたものを元素周期表にした作品を作りました。1年間672食を食べました。周期表が10点のカテゴリーでした。例えば、穀物、乳製品、果物、野菜、飲み物など。

  これもっと近くこれはカテゴリが飲み物、一個ずつの食を例えば、シンボルを描いて、これはSnapple Strawberry kiwi juice それでSkjと来て、上の文字はブランド Snapple。  VIはローマ数字で6番のグループ、556は私の食の556番目です。

   この列で12個の番号あります。これは1月から12月この列が毎月の何番目に食べました。

これまでは大学院時代の作品、それで今回、ディスカッションで、ちょっと散歩記憶プロジェクトを紹介します。

この画像がマウスの海馬です。現在理化学研究所の脳科学研究センターで私のチームがマウスの海馬の神経回路と行動生理学研究をしています。記憶の科学的な根拠を探り、そこから得た知識をアートワークに取り入れることは素晴らしいことです。

(アーサー)次に、海馬に特定神経細胞があります。先ほど、田島さんが言った神経細胞の場所細胞。場所細胞が発火している画像です。ネズミが箱の中で移動します。ネズミに手術してワイヤーが神経細胞の場所細胞の発火のところのデータを取ってます。一つの場所細胞が、箱の中の赤ドットのところで発火します。

(田島)ちょっと、わかりにくいかと思いますので説明しますと、これ(四角全体)が、言ってみれば運動場というか、ネズミが飼われている箱の中を上から見たものですね。ネズミがちょろちょろ動き回る。それで、灰色の線がネズミが動きまわった軌跡ですね。それでこの赤い点は?

(アーサー)場所細胞が発火します。

(田島)場所細胞が発火した場所ですね。ということは、このネズミはこのへん(四角の左上の赤い点が密集している場所)に来た時に、自分はここに居るぞということが分かった、ということですね。ここ(四角の右上の灰色の線ばかりで赤い点がないところ)に居る時は?

(アーサー)そこにいるときは別の特定場所細胞が発火します。これ、一つの場所細胞だけ。

(田島)ネズミに備えられた装置が見ていたのは、こちら(赤い点が密集しているところ)に来たときに発火する場所細胞で、こっち(灰色の線だけのところ)に来たときは別の場所細胞が発火しているということですね。

(アーサー)実験結果の行動生理学的解析はすごい大変。記録はほどんど1個2個の細胞だけのデータが取れますから。何回も手術する。たぶん論文書くとき、一番多くて80個の細胞だけ。脳みそ結構、百億・・・大変それで。この実験、1年間から2年間かかります。それで場所細胞はGPSの役割をしています。場所細胞がなければ人と生物とが自分がどのようにこの場所へやってきたかの記憶も残りません。例えば今皆さんSYPギャラリーにいます。もし、過去にここに来たことがある場合は、神経細胞の場所細胞も発火しています。ここに来るのが初めての場合は、場所細胞は新たにSpatial(空間的)な記憶を海馬に作っていることになります。そして2回目来たら、その同じSpatialな場所細胞が発火します。

2012年に場所細胞についていろいろ考え始めて、この散歩記憶プロジェクトが生まれました。最初私は一日前の通勤した道を思い出して紙に描きました。紙は平たいので描き切れなくなって、反対側からもういちど描き始めたりしました。その描き方はあんまり良くないなと思って、そして丸いオブジェクトに描くことを考えました。

私は卓球のボールと卵の殻を考えました。卓球のボールの上は大変描きにくかったので卵の殻で散歩記憶を思い出しながら油性ペンで描きました。

このプロジェクトを始めた当初は一つの卵の殻に一つのドローイングで描きます。卵の殻の散歩を時系列の順にヒモのようにつなげて展示しました。これは2013年HAGISOで展示した一か月間分の散歩記憶の卵の殻。一番左は一日、右側は31日、上は朝早い下は夜遅い。卵無しの場所は仕事で働いて(いる時間)、これ(卵が切れ目なくつながっているところ)が週末。これ(月の真ん中あたりの日)は名古屋に行きました。

それで私の通った道だけじゃなくて、記号とかシンボルを描きました。例えば建物とかドアとか自動ドア、電車、地下鉄、エスカレータなど。

2014年から1日の散歩すべて一個、一つの卵の殻にドローイングすることを始めました。このドローイングは或る平日の1日を思い出して描きました。線がたくさんありますが住んでいる池袋から研究室のある和光市まで、ありきたりの平日の様子です。

去年の5月に谷中のHAGISOで個展を開催しました。この展示のために6ヶ月間188個のドローイングを卵に描いて天井の柱からつるして大きな脳の形のオブジェを作りました。

主観はどうやってうまれますか? 田島さんの質問に戻りたいんですが、神経科学の実際には実際広い研究分野です。私の研究とアートワークは、記憶に関するものですが、神経美学の議論者の論文とかまだ読みませんですけど。神経美学議論の視ることの研究についても学び始めています。私の研究経験と芸術経験から私の意識がさきほど田島さんが言った中立二元論によってよく記述されていると思います。現在、利根川先生 ―MITと理研BSIのディレクター ―のラボが記憶痕跡研究をされています。記憶痕跡―エングラム*1(engram)ともいいますが―記憶痕跡は記憶に対して脳の中で形成される生物学的な構造を差します。利根川先生の研究を簡単に説明したいと思います。最初の実験、電気ショックを与えたマウスの恐怖記憶を作り出す。ネズミの次の実験、光遺伝学を使って神経細胞の発火を興奮または抑制させることができます。そして恐怖の記憶も興奮が抑制されます。それどうやって神経細胞の発火が恐怖になるか研究中ですが、基礎研究では恐怖は特定の神経細胞に関連していることを示唆しています。そして私は、(この研究結果が)中立二元論(を支持していると思います)

​アーサー・ファンとの対話

田島(以下T):最後の話は利根川先生の研究の話で、脳の中に光を直接入れることによって恐怖と起こさせたり、恐怖を抑制したりすることができるということですね。

アーサー(以下A):オプティックス フィイバーで入れる。

T: ということは、光という物理的なものを使って、人間の、、、人間のとは言わないか、動物の気持ちを変えてしまうことができるということです。それって結構、怖い話で。

A: そうそう、もっと未来では。 人間の可能性は、例えばPTSDの人が、光遺伝学によって光が脳に入ってその記憶をどんどん無くすことができる。これまだまだ今動物実験だけだけど。これいま一人の先生(の実験だけ)が有名だけど、何年かあとでは可能性ある。

T: つまりその実験は、脳の機能を直接光によってコントロール出来て、それによって恐怖に対するコダワリ― PTSDを無くしてしまう、またはPTSDを作り出すこともできる。しかし、それというのは、さっき言った一元論、唯物論のほうを支持することじゃないかと思うんですよ。

A: あぁ

T: 精神は脳の機能であると(いうことではないですか?)。

A: これ基礎研究から本当になんか、すごい。 人と動物、恐怖あります。人間の疾患はもうちょっとComplex(複雑だ)と思う。例えば、蛇みて結構恐怖あります。形みえるとき何の蛇の形とか、色かたちとか、これもう(記憶に)入ってる、思い出。 記憶ももうちょっとcomplex。これもう一元論からエングラムの。

T: どうですかね。質問があるんですけど、アーサーさんはこういう自分が歩いた道を、一日歩いた道を、家に帰って思い出しながら、描くんですか?

A: これいつも次の日。

T: 次の日にやる?

A: そう、ほんとになんか思い出から、頭の中で散歩繰り返し、ここ出かけて、ガラガラを開けて左に行って、まっすぐ行って・・・これ全部次の日

T: 次の日に思い出しながら描く?。

A: そう次の日、三か月間後、出発はいつも朝早くから、夜遅く帰ってきます。それだけ出発点から見えて思い出しながら描いてます。当日に(描くとき)は散歩の描き線はもうちょっと正しいけど、わたしホントに日常生活仕事行って帰るだけ、これ次の日結構思い出しやすい。でも一週間後、どうやって会社に行って帰る結構なんか月曜日から水曜日の散歩道を結構組み合わせたりとか、どの日がどの日なのかちょっとわからない。それちょっと自分で興味あります。みなさん結構特別な日、例えば今日このイベントに来たとき散歩の道は結構思い出しやすいと思います。いつも自動的に仕事行って帰る。同じ通勤やる。けっこう細かい通った道、けっこう思い出せないと思います。

T: あのう、ここで、私が興味あるのはアーサーさん自身がさっきいった実験のマウスのようでもあり、実験マウスを(使って)実験している実験者のようでもあって、さらにそれを次の日に思い出すっていうことは、主観的な記憶をもう一回呼び起こすというわけですよね。だから、その・・・

A: でも客観も入ってる。

T: 客観的に?

A: 客観的なのも次の日 入ってます。たとえば場所細胞とか。例えば本当の期間でどこか行ってこれは場所細胞が発火します。でも今の研究も、みなさん寝るとき、散歩通った道もう一回繰り返し(思い出すと)場所細胞も発火します。

T: で、アーサーさんはこういうの(散歩道を表す線)を描いている時に、場所細胞が発火しているな、と考えながらやってるんですか?

A: そう、発火します。

T: こうやってここ(紙の上)に階段があるとここ(頭)に場所細胞があると。

A: そうそう

T: なるほど・・・

A: みなさん寝る時、一日の移動、もう一回繰り返して、みなさん1日の24時間、でも、そのう、寝るとき、一日の散歩・・・通った道はホントになんか10秒だけ、5秒だけ一日の色が発火します。それで記憶もうちょっと強くなります。それでこれ毎回思い出しながらたぶん私の場所細胞だんだん発火がもうちょっと強くなります。でも一年間後、記憶が弱くなって、またもう一回他の日とか仕事行って記憶が全部組み合わさるとか。

T: もう一点(質問なんですが)、卵に描くようになったじゃないですか。地図の上に描くのだったら、行って帰ってくる線を描くのであれば一つの平面で済むと思うんですよ。どうして紙の裏に、そして立体的なものに描くようになったのか

A: これもできましたけど、もう一つの描き方あまり良くなかったのは、たとえば描いたとき、いつもなんか机とか入って、空から宇宙から見えるでしょ、私どのくらいの線描いて、ああ、そのくらいの長さ(だと分かってしまう)。 でも丸いオブジェクトに描くと、表面たぶん10分の1の表面みえるでしょ、それで卵回して、もうちょっと思い出して・・・記憶から手の線の描き方、直接つながります。たとえば曲がって、どのくらいまっすぐに行って、卵もまがって、で紙に描いて、意識じゃない無意識に、駅から交差点どのくらいでしょ、それでこれ、次の左行って800メートルこれ200メートル、800メートルなんか意識じゃない無意識に結構なんか影響があります。

儀保(以下G): 自分で想像する。(紙の上に描くと)論理的に(なってしまって)、自分の体験じゃない別の体験で描いちゃうから、それを無くすために・・・

A: そう、それで、丸いオブジェクトで、表面ほんとにそのくらい見えるでしょ。それで思い出しながら、卵も回して線も描いてどこまで考えて、あ、ここで右にまがって、それでここ右にまがる・・・

T: 卵を回しながら(描く)

A: そうそう回して

G: エンドレスに

A: そうそうエンドレス

G: 記憶の体験を(描くのに)、紙は限定されているけど球だったら無限にその中で、その動きを蓄積できるっていう・・・

A: 卵の殻、瞬間結構思い出しながら瞬間を組み合わすとか。

T: なるほど、ありがとうございます。

*1:  記憶痕跡(エングラム)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%98%E6%86%B6%E7%97%95%E8%B7%A1

 

記憶痕跡と光遺伝学について利根川教授らの研究成果リンク

http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/56014

http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170407_1/

 

PTSDと光遺伝学の研究

http://www.jst.go.jp/pr/announce/20160801/

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